その3・アメリアの育ち方が照射するゼルの少年期

異性とは、自分が生きられるはずだった可能性を、自分に代わって生きている者のこと。
            ( なんだ…?/ 陰の声 )

 つまり、人はみな、生まれ落ちた時の性別にしたがって社会化される。 
                ( …はあ  )
  
  つまり、男の子なら、「 むやみに人前で涙を流すのは恥ずかしいことですよ」 「小 さなことにこだわるのは男のすることではありません」「 ピンクは女の子の色だから、身につけるのはちょっと…」etc…  女の子であれば「大またで歩いてはいけません」「太ももが見えるのは恥ずかしい。周りの目に自分がどう映るかを気にして歩きなさい。大声で話をしてはいけません」etc…と、それぞれに様様な抑制をうけて育ち、それが身についていく。 

                  (…だから何だ ??)

  つまり、男の子にとって、ピンクの服を着て、小さいことにこだわり、人前でも平気で感情のままに泣ける女の子=異性を「 かわいい 」 と思えるのは、彼女が、彼が 社会化されるときに捨てざるを得なかった自由を生きているから。  同様に、女の子にとって、人目も気にせず自由に駆けて行ける男の子=異性を「すてき」と感じるのは、それが、彼女がそうしたくてもあきらめざるをえなかった自由を彼が生きているから、 というわけ。

 (…ちょっと待て、男の子が皆が皆、泣き虫の女の子を可愛いと思ってるわけがないし、女の子にだって、自分で駆け出す子だっていっぱいいるぞ)

  もちのろん。これは、その人が、異性のどういう部分に惹かれたのかを検証してみれば、その人が成長する過程で (もしくはその時点で)、その人がその人の中の何を失っ てきたか、あるいは何を抑圧してきたかが、わかるということ。 
  つまり、泣き虫の女の子を愛しく思う男がいたら、彼の中には、泣きたくても感情のままに泣くことを禁じられてきた男の子がいる、とも言える。女の子として行動を抑制することを学び、それを無意識の部分で苦しく感じている女の子にとっては、傍若無人にふるまえる男の子を意識しないわけにはいかない

          (…それが、アメリアとゼルにどういう関係がある?)

  つまり、ゼルがアメリアにひきよせられるのは、ゼルにとって、アメリアは、彼が、こういう風に生まれ育ちたかったという、彼にとってのかなわぬ憧憬であると、いえなくもないということ。
 彼のなりたかったものは、アメリアのように、<愛されて育った子ども>…?
 だから、アメリアの育ちをネガに転じたものが、ゼルの育ちなのではなかろうか?

             (…アメリアはどういう女の子か? ) 

 1)愛されて育ち、自分の感情に忠実で、他人は自分の期待通りにふるまってくれるという勝手な思いこみがある
  (「NEXT」アメリア:「 私たち、愛と正義の仲良し4人組が力を合わせれば!」
  ゼル:「そういう言い方はやめろ〜!」)

 2)その人がその人であるというだけで、無条件に相手を信頼する。だから、自分の正義のためにリナたちが協力するのは当然で、彼女たちの迷惑になるとか相手にも都合があるとか、何か報酬が必要とか考えない。 いいかげん。

 3)とうさんとの一体感があるから、怖いもの知らずで無鉄砲、無償で人を助ける

   (注・もちろん全編を通じてアメリアがこうだというわけではない。冥王との戦いに赴くとき、冥王の目的をリナにたずねるゼルをさえぎって「それを聞いたら私はリナさんをとめなければならなくなるにきまってます。だから、ガウリイさんを助けに行く、それだけで十分じゃないですか」と言うのを 聞いたときは「 この子も(自分を客観視することができるまでに)成長したんだなあ 」 と、私はとても嬉しく感じた。しかしここでは「こういう育ち方をしてきた」という視点からの話。)

     ( …以上をひっくりかえしてみたのが、ゼルの「 育ち 」…? )
だからゼルは
 1)育ての親のレゾに、愛されずに育った(と思いこんでいる。後に、レゾに魔法(呪い)をかけられ、手足として使われているから、現時点ではそう思いこんでいる。(本当に愛されなかったのかというと、それには疑問の余地がある )
  「他人(ひと)には他人(ひと)の都合がある 」ということがわかっている。
   また、自分の感情を抑制することを学んでいる

 …小さいうちはレゾの旅のお供は無理だから、邸宅で留守番をさせられていたのではないか。日常的な生活の面倒をみてくれる子守りか使用人くらいは残していったかもしれないが、レゾが男の子を独りで置いておくことをためらったとは思えない。年端も行かない少年が庇護者の元を飛び出す理由はない。
 ( 暖かいベットに柔らかい食べ物 気持ちのよい服 を捨ててまで飛び出していく理由があれば別だけど)男の子が彼の帰りを待ちわびていることを、レゾは疑わない。

 …男の子はレゾに対して、子どもらしいわがままを言えただろうか?
 言えるわけがない。親がわりの彼の庇護を失うことを怖れるのは、子どもと して当然のこと。まして親を亡くしてからレゾが現れるまでの間のことを思えば。

 2)相手を無条件に信頼はしない。何らかの報酬が交換されるという上で契約が成り立つと考えている。 契約が成立すれば誠実に守る。自分には、報酬( 金銭または相手を擁護できるだけの強さなど)として他人と交換できる価値をもっているだろうかと、あるとき男の子は気がついて愕然とする。

 3)自分の身の程を知っているから、(アメリアのように)勝てない相手に戦いを挑むようなことはしない。無茶はしない。合理的、冷静な判断。
  ということが考えられる…かな?(うっ暗い)

 ずいぶん大人びた、賢い子どもの姿が浮かんでくる。
 長じて彼が、自分に強さを求めたのは、ごく当然のことだった。


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 もとになった考え方は、「ものぐさ精神分析」の岸田秀の著作物の中で読んだように思うのですが、「異性の中に失われた自己をみつける」説で…ニフティの会議室に最初にログ(カキコ)するときに、ちゃんと引用しようとして本を探したが、見つからない。
そこで、「子ども」をキーにして、自分で作った文章です。
…なんとかご理解いただけたでしょうか

 もちろん私も、自由にふるまう異性を見てなぐさめられるよりは、自分自身がそのように振舞えるほうがいいと思います。だから、スレのギャグ月間のゼルを見るのは痛快だった。
 あれは、ゼルが自分には到底こんな ことは出来ないと思っていた未踏の可能性に足を踏み入れる作業だったので(ははは)、見ているほうも、嬉しいのだ。