【元気娘と魔剣士】

その7

<約束>

それからの二人は、以前とはうってかわってらぶらぶに、、、なった訳ではなく、
傍目にはこれまでと殆ど変わらないように見えました。
、、、でも、ほら、よぉくご覧になってください。
ゼルガディスは、食事時以外にも頻繁に姿を見せるようになりましたし、彼の傍に
いるアメリアの仕種が、自然に彼に寄り添うようになっていました。
二人は毎日たくさんの話をしました。ゼルガディスの知識はアメリアにとって珍し
く興味深いものでした。魔法談義に花を咲かせることも多々ありました。彼の精霊
魔法の多彩さは目を見張るほどでしたし、反対に白魔法では、アメリアが先生とな
って、得意の正義論を折り交ぜながら演説を始めたりと、、、。
アメリアの父親や姉たちの話には、ちょっと引いてしまうゼルガディスでしたが、
嬉しそうに家族の話をする彼女の顔を見ていると、やめろと言うわけにもいかず、
内心の苦笑を隠しながら聞いていたのでした。
そんな穏やかな日々が続いたある日のことでした。
アメリアがゼルガディスと一緒に、彼女の家の様子を魔法の鏡で見ていたときのこ
とです。アメリアは、自分の父親のパワフルぶりを彼にも見て欲しくて、遠回しに
逃げようとしていたゼルガディスを、半ば強引に引っ張ってきたのです。
しかし、鏡に映った父親の姿は信じられないものでした。
アメリア以外には耳を塞ぎたくなると言われていた豪快な笑い声は消え、教会の塔
の天辺まででもジャンプしていた驚異的な脚力も、今の父親からは見ることができ
なくなっていたのです。
見えるのは、自分の身代わりとなって残してきた娘を心配するあまり、生気を無く
してしまったような寂しい顔でした。
 「父さん……」
アメリアは信じられないと言った顔で、茫然自失に陥っていました。
言葉を失い、ただ、父親の姿を見つめるばかりでした。
今すぐにでも飛んで帰りたい、でも、、、、、。
 「帰りたいか……?」
小さく問い掛けた言葉に、アメリアは驚いたようにゼルガディスを見ました。
 「心配なんだろう?」
 「それは……」
帰りたくないわけはありません。大好きな父親があんな様子なのですから。
でも、アメリアには、父親と同じくらいにゼルガディスが大切な存在でした。彼の
元から離れることは、彼女にとっても心が引き裂かれるような思いだったのです。
 「一度、帰ればいいさ。おまえが顔を見せてやれば安心するだろう」
 「いいんですか?」
アメリアの問いかけに、ゼルガディスは少し困ったような顔をしたのですが、すぐ
にその表情を消し微笑んで答えました。
 「正直言えば…帰したくはないさ。でも、おまえのそんな顔は見たくないからな。
  この間みたいに、黙って出て行かれる訳じゃないし、な」
 「…ゼルガディスさん……」
 「そのかわり……絶対に、帰ってくると約束してくれ。俺から離れないと…」
言葉を紡ぎながら、ゼルガディスはアメリアを抱きしめました。
 「俺の元に、必ず帰ってくると言ってくれ……」
 「…約束します、きっと戻ってくるって……。私が幸せに過ごしていることを、
  私自身が言ってあげれば、父さんもわかってくれるはずだから。
  そしたら、私、必ずここに……ゼルガディスさんの元に帰ってきます」
腕の中のアメリアは、小さな声で、でもはっきりと言いました。
 「…今すぐと言うわけにはいかないが、明日、目が醒めたら家にいるはずだ。
  何日でも、好きなだけいればいい。おまえが納得するまで……。
  ここへ帰りたくなったら、そのときはこの指輪を枕元に置いて眠ればいい」
ゼルガディスはそう言いながら、アメリアの指に、淡くピンクに色付いた、クリス
タルのように透き通った指輪を滑り込ませました。それは、薔薇石(ロ-ズスト-ン)と呼
ばれるもので、古の時代には、婚姻の証として使われていたものでした。
 「忘れないように…約束の印だ」
抱きしめた腕を緩め、アメリアの頬にかすめるようにキスをしました。
真っ赤になった彼女を愛しげに見つめ、再び抱き寄せて囁きました。
 「俺を、忘れるな……」
                                                                          〜その次へつづく〜


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