【元気娘と魔剣士】
その6
<心の行方>
の続き

シルフィールとの話の後、ゼルガディスはアメリアの部屋にいました。
彼女の眠る傍に腰掛け、未だ、閉じられたままの瞳を見つめながら。
森で見たときには血の気の無かった顔色も、今はすっかり薔薇色の頬に戻っていた
のですが、彼女の、あの、元気いっぱいの大きな瞳が閉じられたままでは、何だか
アメリアではないようにゼルガディスには感じられました。
「俺が逃げていたのか……?」
眠るアメリアに話しかけるように、ゼルガディスはポツリと呟きました。
「おまえがここへ来たとき、俺の姿を目にして初めは怯えていたんだったよな。
     でも、それだけで、俺を噂どおりだと決めつけたりしなかった。自分で感じた
     気持ちだけを、率直に投げかけてきた……」
枕元に置かれた燭台の小さな光が、彼の言葉に答えるように揺れています。
ゼルガディスは、そっとアメリアの頬に触れました。
 「俺は、他人だけでなく自分自身にも絶望していた。誰も信じられなかった。
     全てを疑い、嘲り、何もかも滅んでしまえばいいとさえ思っていたんだ……。
     なのに、おまえときたら、そんな俺の負の心を、いとも簡単に否定しただけで
     なく、正義だか何だか、おかしな説教までしやがって……。
     知っていたか?……俺がどれくらい驚き、戸惑っていたか。
     おまえには何気ないことだったかもしれないが、俺にとっては衝撃だった。
     だから、俺自身を真っ直ぐに見つめるおまえに、必要以上に近付かないように
     していたんだ。
          ……どうすればいいのか、どう言ってやればいいのかわからなかったんだ。
     でも、それは間違っていたのかもしれないな。おまえの優しさに甘えていただ
     けで、俺からは心を開こうとしていなかった。
     あのとき……盗賊たちを皆殺しにした俺を責めたときもそうだ。
     俺は、自分の都合だけでおまえに何も言わなかった。言わなくてもわかってい
     るはずだと、勝手に思い込んでいたんだ。
     ……言えば、良かったんだな。
     喩え、それがおまえの望んだ理由でなくても、言葉にしなければ何も伝わらな
     いし、まして、分かり合うことなどできるはずがない……」
胸の上で組み合わされていた手を解き、その左手を自分の両手で包み込むように、
握りしめ、ゼルガディスは語り続けました。
「愛しているかなんてわからない。俺はそんな感情は知らない。
     ……だが、おまえを大切に思っているのは本当だ。おまえがいてこそ、今までの
     俺を変えて行けるかもしれないと思うことができる。
     俺が俺で在り続けるには、おまえが必要なんだ………」


<迷うココロ>

  『ココハ ドコ……?』
   ――見回しても、周りは白い闇に包まれているばかり――
  『ナニモ ミエナイ……』
   ――宙に浮いているのか、地に足をつけているのかわからない――
  『ワタシハ ダレ……?』
   ――思い出せない、名前も顔も――
  『ワタシハ…ワタシ……』
   ――知らない自分、自分を知らない――
  『ココハ…ワタシノ…ナカ……』
   ――心の中、心の源、想いの生まれる場所――
  『アレハ、ナニ?』
   ――白い闇から溶け出したように現れたもの――
  『アレハ、ダレ?』
   ――どこかで見たことがある、会ったことがある――
  『ワタシヲ シッテイル?』
   ――哀しそうな瞳をしているのは、何故――
  『ワタシハ シッテイル』
   ――空回りしている気持ち、言葉にならない心の痛み――
  『ダレカノ コエガ キコエル……』
   ――何かが、誰かが、探している、だけど――
  『モウ カエレナイ…』
   ――傷付いた人、傷付けた心、失ってしまったものは何?――
  『デモ カエリタイ』
   ――許されるなら、あの人の元へ――
  『ヨンデイル……?』
   ――囁くように、優しく、暖かい、声――
  『コエガ キコエル……』
   ――私を、呼んで、いる――

                                                                        〜その7へ続く〜


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