【元気娘と魔剣士】 その3 (2) |
空は完全に嵐となっていました。雪の降りしきる中、雷光が彼の姿を包んでいます。 それはまるで、ゼルガディスの怒りが形となって見えているようでした。 盗賊たちは、その姿に圧倒され言葉を失っていました。 「確かに俺は人間と言えないかもしれない。そう言われるだけのことを、今まで してきたのだからな。・・・・だが・・・」 呆然と彼の姿を見る男たちを睨み、なおも近付いていきます。 「・・・だが、アメリアをそういう目で見ることは許さない・・・! 彼女は、おまえたちなどとは較べ物にならないぐらい、強く優しい心を持って いる人間だ・・・・!おまえたちより余程な!」 一陣の風が彼のマントをはためかせ、その刹那、彼の剣が閃いたかと思うと、盗賊 の一人が声も立てずに地面へ崩れ落ちました。 「い、一撃で、殺りやがった・・・・」 盗賊の頭は、ゼルガディスの本当の力を思い知らされ、慌てて言いました。 「ま、待て。あんたの腕はよくわかった。俺たちが悪かった。これ以上あんたの 邪魔はしないから見逃してくれ!」 他の男たちも、すっかり及び腰になっており、中には立つことすら出来ずに、這い つくばって逃げ出そうとする者もいました。 「頼む!この通りだ!」 「・・・・・遅かったな・・・・」 ゼルガディスが薄く笑ったのが、盗賊の頭の見た最後のものでした。 首の付け根に灼熱感を感じた瞬間、既に彼の意識は途切れていたからでした。 流れ出す鮮血が白い地面を染めていきます。真紅の染みはどんどんと広がり、それ を目にした残りの盗賊たちは悲鳴を上げて走り出しました。 「一人も生かしては帰さない。・・・・・おまえたちが望んだのだからな・・・」 ゼルガディスは追おうとはしませんでした。剣を納め、右手を高々と上げると、 その掌には魔力の光が生まれました。 「・・・大地よ・・・我が意に従え・・・・・」 そのまま、右手を地面へ叩きつけるような動作をしたのです。 「地撃衝雷(ダグ・ハウト)!」 逃げ出した盗賊たちの足元は、大地震のように激しく脈動していました。誰もが歩 くことも出来ず、大声でわめきながらパニックに陥っていました。 そんな彼等の姿に冷笑を浮かべ、ゼルガディスが再び右手を大きく振り上げました。 同時に、地面は雪を巻き上げながら無数の錐を突き上げ、盗賊たちの身体を貫いた のでした。胸を、頭を太い錐に貫かれ、出来の悪い操り人形のように手足を痙攣さ せているだけでした。動く者は、今や彼だけで、、、、。 「いやぁ〜、さすがはゼルガディスさん」 「ゼロス!」 地上にいる者、全てに有効なはずの魔法からどう逃れたのか、、ゼロスは変わらず 微笑みを浮かべたままゼルガディスの前に立っていました。 「・・・もう一度聞く。おまえは何者だ」 「先程お答えしたとおりですよ」 「ただの神官だとは思えないのだがな・・・・」 「やっぱり、怪しいですかねぇ」 「・・・・・・・」 「僕としては、あなたの敵になるつもりはないんですよ。今日のことにしても、 元々あなたを殺すつもりはなかったですし、どちらかと言えば、盗賊たちを あなたに殺して欲しかったんですよ。出来るだけ残酷に」 「何だと・・・?」 「あなたのその残酷さこそが、僕たちにとっては重要でしてね」 「・・・どういう意味だ」 「おっと、ちょっとおしゃべりが過ぎましたね。・・・これ以上は・・秘密です」 「ふざけるな!」 「さて、僕は失礼しますよ。目的は大体果たしましたから。ではまた・・・」 「おい、待て!」 そう言い残して、ゼロスは突然ゼルガディスの目の前から消えたのでした。 翔封界(レイ・ウイング)で飛び去ったのでもなく、まるで空気中に吸い込まれたように。 「・・・あいつ・・・・・」 少しの間、ゼロスの消えたあとを見つめていたゼルガディスでしたが、それ以上は 何もしようとせず、屋敷の方へと歩き始めました。 一方アメリアは、「外に出るな」と言うゼルガディスの言葉に頷いたものの、 やはり大人しくしているわけにもいかず、彼の後を追おうとしました。しかし、扉を 開けて何歩も歩き出さないうちに、見えない壁に阻まれていました。一度破られ たはずの結界を、ゼルガディスが再び張っていたからでした。 それは、ゼルガディスがアメリアを守るための仕業だったのですが、彼女にしてみ れば、彼を手助けすることすら出来ないのが歯痒く思えるだけでした。 「このまま黙って見てるだけしか出来ないなんて・・・・」 何とか結界から出られないかと試行錯誤してみたのですが、無駄足に終わりました。 仕方なくアメリアは、せめて成り行きだけでも見届けようと、ゼルガディスと盗賊たち の戦いに目を向けました。最初は心配でたまらなかったのですが、彼の強さを 目の当たりにして、これならば大丈夫と一安心したのです。残酷と言われていた彼 でしたが、一人の命も奪わずに、戦闘不能に追い込むだけにとどめているのがわか ったのもその理由のひとつでした。 「やっぱりゼルガディスさんは、噂のような悪い人じゃないのよね」 扉の前の石段に腰かけ、すっかり気が楽になったアメリアでしたが、盗賊たちとは 別に神官風の男が現れたとき、彼女の心に、暗い霧のような不安が広がりました。 「あの人、何か普通の人じゃないわ」 何の根拠もありません。ただ、そうアメリアが感じただけです。しかし、その不安 が現実となったかのように、ゼルガディスの様子が一変したのでした。 「・・・・・こんな・・・まさか・・・ゼルガディスさん・・・・・」 アメリアの目の前で殺戮が始まっていました。 血飛沫を上げて倒れる男。大地から突き出した錐に貫かれ、動かなくなった男たち。 白い雪と赤い血。暗い空に眩しすぎる稲妻。 立ちすくみ、自分の呼吸する音と心臓の鼓動が、やけに大きく感じられました。 身体中の血が無くなったような、、、、なのに手のひらだけは汗ばんでいました。 「・・・・違う・・・わよ・・・ね・・・・」 ゼルガディスが、ただ殺戮をしたとは思えなかったのですが、あまりにも凄惨な現 実を突きつけられ、アメリアにはどう受け止めればいいのかわからなかったのです。 「聞かなくちゃ・・・ゼルガディスさんに、聞かなくちゃ・・・」 屋敷へと歩くゼルガディスは、アメリアの立ちすくむ姿に気付きました。近付いて いくと、アメリアの様子が何だか変でした。 「アメリア」 名を呼び、手を差し出すと、触れる前にアメリアの身体がビクッと動きました。 まるで、初めて会ったときに怯えていたように、、、。 「・・・ずっと見ていたのか・・・・・」 「・・・なぜ、なんですか・・・・?あそこまでやる必要があったんですか!」 差し出した手をゆっくりと引き、ゼルガディスは彼女に背を向け歩き始めました。 「どうして何も言ってくれないんですか!」 なおも言い募り、アメリアはゼルガディスの後を追いました。 「ゼルガディスさん!」 しかし、ゼルガディスはアメリアの言葉を無視するかのように、無言のままです。 「ゼルガディスさんは、進んであんなことをしたわけじゃないんでしょう? 私、あなたが噂のような人じゃないのは知ってます。知っているつもりです! だから、理由を聞かせて欲しいんです!」 その言葉にゼルガディスは立ち止まり、振り向いた彼の表情に、アメリアはハッと しました。アメリアの知っているゼルガディスとは思えない、寂しげな顔でした。 「その理由をおまえが聞くのか・・・。そんなに俺に言わせたいのか・・・?」 「言わなければわかりません・・・」 「・・・・そうか、わからないか・・・・」 「だから、聞いているんです」 「・・・・理由なんてないさ。俺がそうしたかったからだ・・・」 「嘘です!ゼルガディスさんがそんなこと・・・!」 「俺のことを知っていると言うのなら、理由など聞く必要はないはずだ!」 ゼルガディスの叫ぶような言葉に、アメリアは何も言えませんでした。 「もういい・・・これ以上話すことは無い」 そう言ってゼルガディスは姿を消し、アメリアはその場に残されたのでした。 〜その4へ続く〜 |
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