【元気娘と魔剣士】 その2 <接近> |
不思議な夢から目覚めたとき、アメリアは柔らかなベッドの中でした。 「何だったのかしら、あの夢は。・・・・・・え?私、どうしてここに?」 昨日の夜、泣き疲れて眠ってしまったので、何も覚えていません。誰かがこの部屋 まで運んでくれたのだと思いましたが、それが誰かなんて見当もつきません。 アメリアは部屋を見回してみました。広々とした室内には、ベッドの他にも立派な 調度品が並んでいます。寄せ木細工のテーブルの上には、淡いピンクのバラが飾ら れていました。 「これは・・・・父さんが持って帰ってくれたのと同じバラだわ」 この1本のバラのために、父親と別れなければならなくなったのだ、と思うと、アメリ アの目には、また涙が滲んできてしまうのでした。バラの花を手に取り、しばらくうつ むいたままでした。 「泣いていてもどうにもならないわ。残酷な魔剣士と言われていても、魔族でも 幽霊でもなくて人間なんだから、何とか方法があるはずだわ」 自分に言い聞かせるように、アメリアは呟きました。 「よし!この家の中を探検に行くことしよう!・・・・まずは、やっぱり食堂よね」 いつまでもくよくよしないのがアメリアのいいところです。自分の家にいるときの ように、鏡に向かってにっこり笑ってから部屋を出たのでした。 食事を終えたアメリアは、たくさんある部屋をひとつずつ見て回りました。どの部 屋にも人が使っている様子はなかったのですが、きちんと掃除がしてあって、いつ でも使えるようになっています。そんな部屋のひとつに入ったとき、アメリアは、思 わず感嘆の声を上げました。その部屋には、天井までありそうな大きな本棚と、座 り心地のよさそうな寝椅子。暖炉の側にはふかふかの毛皮の敷物が敷いてあって 一日中でも本を読んでいられそうな部屋でした。誘われるように本棚に近付くと、 アメリアの大好きなヒロイック・サーガもたくさん並んでいます。 「これって・・・どういうことなのかなぁ?もし、魔剣士が私を殺す気だったら、こんな 風に自由にさせてくれるわけないわよね・・・・」 結局、その日は一日中本を読んで過ごしました。魔剣士は一度も姿を見せないま ま、夜を迎えたのでした。 遅い夕食を取るために食堂へ入ると、テーブルには二人分の支度が出来ていました。 「え・・・?二人分ってことは・・・・」 アメリアの胸の鼓動が駆け足を始めました。椅子に座ろうとしたのですが、足がすく んだように動けません。暖炉の火の暖かさも、どこか遠いところで感じているようで、 自分の指が震えていることにも気付かなかったのです。 「どうした、座らないのか?」 後ろから声が聞こえ、鼓動の早さは全力疾走にまで高鳴りました。 「おい、返事くらいしたらどうだ」 ドキドキドキドキ・・・・・。失神寸前のアメリアに足音が近付き、すぐ後ろに、、、、。 「きゃあぁぁぁっっ!!」 「なっ、何だっ!?」 極度の緊張と、殺されるかもしれないという恐怖のあまり、アメリアは悲鳴をあげ、 その場に座り込んでしまいました。覚悟はしていたものの、いざ、ゼルガディスの 冷たい声を聞くと、覚悟なんて吹っ飛んでしまいました。知らず知らずのうちに、身 体が震えています。 「あのなぁ・・・・肩に手を置いたくらいで悲鳴を上げることはないだろーが・・・」 ゼルガディスがうんざりしたように言いました。でも、アメリアには答えることが 出来ません。守るように、自分で自分の肩を抱きしめたまま動けませんでした。 「そんなに俺が怖いのか? それとも、俺みたいな怪しい奴とは、話もしたくない・・・・か?」 「いえ・・・・話したくないわけじゃありません。・・・怖いとは思ってますけれど」 「心配するな、今すぐどうこうする気は無い」 ゼルガディスの言葉に、少しだけ緊張のとけたアメリアは、初めてゼルガディスの 姿を目にしました。彼の容貌については、父親からある程度聞いていたのですが、 実際に目の当たりにすると、やはり驚きは隠せませんでした。 「やっぱりおまえも、そういう目で俺を見るのか・・・・。 そうだろうな・・・・この姿じゃ人間とは思えないだろうからな」 そう言うゼルガディスが、とても傷付いたようにアメリアには見えました。 『血も涙もない残酷な魔剣士と思っていたけれど、今、目の前にいるこの人は、 そうとは思えないわ。普通の人と変わらない気がする・・・』 「すまなかったな。・・・・・俺は退散するから、食事を済ませるといい」 「・・・待ってください!」 「いいさ、無理しなくても」 「違います!・・・・・いえ、その、ちょっとは無理してるんですけれど・・・・。 あの・・・私、お礼が言いたかったんです」 「礼だって?」 「はい。・・・父さんを無事に帰してくれたことや、食事とかの・・・」 「父親のことはそう言う約束だったのだから、別に礼を言われることじゃない」 「それに、昨日の夜、あなたがベッドまで運んでくれたんでしょう?」 「・・・・・・・」 「あなたの姿形に驚いたのは本当だけど、見た目で人を判断するのは私の主義に 反するし、それに・・・あなたは噂ほど怖い人じゃないと思ったんです」 「ほう?」 「嘘じゃないです。少なくともここに来た私に対しては、いまのところ、あなた はとてもいい人だと思います」 「・・ハッ・・・・言ってくれるな、おまえ・・・・・。まぁ、いい。とにかく食事にしろ。 話はまた後でもできる」 「魔剣士さんも一緒じゃなきゃダメですよ」 「わかったわかった。お姫様のお許しが出たのなら、ご一緒させてもらおう。 ・・・・・・それから、俺のことはゼルガディスと呼んでくれ。 ”魔剣士さん”・・・ってのは、何だか間抜けだ」 「はい!ゼルガディスさん。(ニッコリ) それじゃ、私のこともアメリアって呼んでくださいね」 さっきまでは震えるほど怖がっていたアメリアでしたが、すっかりいつもの元気を 取り戻したようでした。食事を終え、二人はサロンに場を移し、ゼルガディスから 手渡された香茶の甘い薫りを楽しめるくらいに。 「さて、さっきの話の続きなんだが」 アメリアの座るソファから少し離れ、壁に背を預けたゼルガディスが言いました。 「おまえは俺をいい人だと言ったが、本当にそう思っているのか?」 「ええ。噂で聞いていたときは、もっと怖い人だと思ってましたから」 「噂・・・・か。そうだろうな、今まで結構悪どいこともしてきたし、俺の、この手で殺 した人間の数でさえ覚えてないくらいだからな」 「・・・・・」 「俺を化け物扱いするヤツらを見てると、腹が立つ以上にやりきれなくなるのさ。 好きでこんな身体になったわけじゃない!だが、誰もが俺を好奇心、軽蔑、怖れと いう目で見るばかりだ。だから俺は、ヤツらが思っているとおりに殺してやったのさ。 ・・・・いっそ、本当に化け物だった方がまだマシかもな」 「ゼルガディスさん・・・・・」 「おまえだって、俺のこの姿を気味悪く思っているだろう?出来るなら、今すぐ ここから逃げ出したいと。」 「そんな・・・」 「おまえが俺の姿をこれ以上見たくないと思うなら、正直に言えばいい。 そうしたら俺は二度と姿を現さない」 「・・・・・ダメです!」 「?」 「私はあなたとの約束を守って、父さんの代わりにここへ来たんです。 もし、私がいることが、ゼルガディスさんの邪魔になるというのなら、今すぐ 私を追い出すなり、殺すなりされても構いません!」 「アメリア・・・・?」 「ゼルガディスさんは優しいです!そりゃ、見た目はちょっと変ですけど、絶対 悪い人じゃありません。この私が保証します!」 「いや、保証されても・・・・・(汗)」 「ですから、そんな言い方しないでください!それじゃ、現実から目を外らして 逃げているだけですよ!今までの悪の道は捨てて、今日から正義を目指して、 正しい道に戻ればいいんですっ!」 「それはちょっと違うような気がするんだが・・・・・」 「及ばずながらこのアメリア、とことんお付き合いさせていただきますっ!」 いつの間に上がったのか、テーブルの上でポーズを決めるアメリアを呆然と見てい たゼルガディスでしたが、何とか気を取り直して言いました。 「おまえの好きにすればいいさ。ここはおまえのものだ」 「え?」 「おまえが望むものは何でも用意してやろう。自分がやりたいことを自由にすれば いい」 「・・・・でも、どうして?」 「さぁな・・・・。おまえのことが気に・・・・・」 「私が何ですか?」 「いや、何でもない」 口にした言葉を途中で切ってしまったので、アメリアには彼の思ったことはわかり ませんでした。ゼルガディス自身、自分が何を言おうとしているのかということに 気付いて戸惑っていたのです。こんな気持ちになるなんて思ってもみなかったこと でしたから。 結局、その後二人とも話を切り出すきっかけを探せないまま、お互いの部屋に引き あげることになりました。 『・・・・おやおや、これはこれは』 誰もいなくなったサロンに、どこからともなく声が響きました。 『どうも困った展開になってきたようですね・・・・。 やはり、僕が動かざるを得ないですかねぇ、あまり気乗りしないのですが・・・。 さて、どうしましょうか・・・・』 次の頁へ進む |
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