<別れ> 魔剣士の屋敷から小さな家までは、三日ほどの道のりでした。家に帰り着いた父 親を娘たちは大喜びで迎えました。しかし、抱きついてくる娘たちを順番に抱き締め ながら、商人は涙を流しました。そして、持っていたバラの花をアメリアに手渡しなが ら言いました。 「さぁ、アメリア。お土産のバラだよ。わしにできる、最後の土産になってしまった がね」 「父さん、どういうことですか?」 商人は、自分の身の上に起こったことを娘たちに話して聞かせました。 「何て勝手なこと言うのよ、そいつはっ!?」 「そんなわがまま言うヤツは、このあたくしがお仕置きしてあげるわ!」 大きな声をあげ、二人の姉たちは今にも飛び出して行きそうでした。。 「二人とも、頼むからそんなに興奮するんじゃない。わしがあの屋敷に戻れば、 おまえたちは今まで通りなのだからな」 「でも、お父さんがいなくなったら、あたしたちはどうすればいいのよ?」 「そうよ、お父さんがいてくれない毎日なんて考えられないわ」 姉たちは、それはもう、一生懸命に父親に訴えました。何故なら、父親がいなくな れば、明日からでも困るのです。父親の顔の広さと憎めない性格のおかげで、今ま で少々(?)の無茶をしても、大目に見てもらえたのですから。お土産がないどころの 話ではありません。 そんな姉たちを見ながら、アメリアが口を開きました。 「父さんも姉さんたちも気にすることはないわ。私がその魔剣士の屋敷へ行けば、 いいのでしょう?誰か一人でいいのなら、私が行きます」 「アメリア、いいんだよ。わしはもう覚悟は出来ているのだから。 なぁに、予定より何年か早く死ぬだけだ。おまえたちの花嫁姿が見れないのだ けは口惜しいがね」 「いいえ!私が頼んだバラのせいだもの。それに、父さんの役に立てるのなら、 私はとても嬉しいもの」 「アメリア・・・・・・」 こうしてアメリアは、商人の代わりとして、魔剣士ゼルガディスの屋敷へ行くこと になりました。約束の日までの4日間、アメリアはいつも通り自分の仕事をして、 悲しむ父親を励ましながら過ごしました。そして、7日目の朝、父親と連れ立って 家を出たのでした。 魔剣士ゼルガディスと約束した日の前日の夕方、二人は屋敷に着きました。 馬をつなぎ、屋敷の中へ入ったのですが、魔剣士の姿はどこにも見当たりません。 商人はアメリアの手を引き、以前入った食堂へと歩きました。 すると、あのときと同じように、テーブルにはごちそうが並んでいました。 「まぁ、何てすごいごちそうなの!」 アメリアは驚いて言いました。 「父さん、これは私たちに食べろということなのかしら?」 「そうだろうな。前にわしが来たときもそうだった。 ・・・・・・だが、殺されるとわかっていながら食事をする気にはなれんよ・・・・」 「そんなこと言わないで。もしかしたら、魔剣士の気が変わったのかもしれないわ。 せっかく用意してあるのだから食べましょうよ」 そう言われても、商人にはとうていその気力はありませんでしたが、アメリアは、 父親を元気付けようとしてテーブルにつきました。 そのときです。二人の耳に大きな音が響き渡りました。商人は魔剣士が現れる音と わかり、真っ青な顔で娘を抱きしめました。 「約束通り来たようだな」 どこからともなく声がしました。 「その娘がおまえの代わりになるんだな?」 商人は、やはり娘を見殺しには出来ないと思い、そう言おうとしたのですが、父親 より先に娘が答えました。 「そうです!父さんの代わりに私がこの屋敷に残ります。だから、父さんには何 もしないで無事に帰してください」 「アメリア!」 「いいだろう、約束は守る。娘を置いて立ち去るがいい」 そう言うと、ゼルガディスの声はそれきり消えてしまったのでした。 崩れ落ちるように床に座り込んだ商人に、アメリアが優しく言いました。 「父さん、私大丈夫だから、ね。父さんの娘だもの、心配しないで」 「アメリア・・・・わしは・・・・・・」 「父さんがそんな顔してたら、私まで悲しくなっちゃうわ。・・・・さぁ、早く帰らない と。魔剣士の気が変わらないうちに。・・・・離れていても、ずっと父さんのこと大好 きだから、ね」 「すまん・・・アメリア・・・・・」 商人は屋敷を後にしました。残してきたアメリアのことを思い、何度も何度も振り 返りながら。でも、もうどうしようもなかったのでした。 一人屋敷に残ったアメリアは、父親が見えなくなるまで見送った後、食堂に戻りま した。暖炉の前に座り込み、燃える炎をじっと見つめていました。その頬に、涙が 流れるのは、それからいくらもたたないうちでした。 やがて、アメリアは泣き疲れてそのまま眠ってしまいました。涙で睫毛は張り付き、 頬には涙のあとを残して。 「眠ったのか・・・・」 ゼルガディスが、いつの間にか食堂に現れていました。 炎の影を顔にうつしたアメリアをしばらく見つめていたのですが、そっと、彼女を 抱き上げると食堂を出て行ったのでした。 |
<夢> 『アメリアさん、アメリアさん・・・・・』 「・・・誰?誰が私を呼んでいるの?」 『いえ、名乗るほどでもないのですが、まぁ、通りすがりの謎の神官とでも・・・』 「・・・・?」 『あ、そんなに深く考えなくとも・・・・これは夢ですから』 「私の夢、ですよね・・・・?」 『ええ、そうです。あなたの夢の中に、ちょっとお邪魔しているんですよ。 あなたにお話ししておきたいことがあったものですから』 「・・・・話?」 『あなたがお父さんの身代わりになるなんて、全く予想外でしてねぇ。 僕としても、今後の対処に困っているんですよ。 もうちょっとで、彼をモノにできそうだったのですが、あなたが現れたことで どうも予定がおかしくなりそうでして・・・・・・』 「彼・・・って、魔剣士のことですか?」 『ぴんぽぉ〜ん、正解です。ですから、僕としてはですね、これ以上予定を遅ら せると、上司に叱られちゃうんですよ。』 「はぁ・・・」 『あんまり、彼に関わらないでいてくれると助かるのですが、どうでしょう?』 「どうでしょうと言われても・・・・私、困ります」 『いやぁ〜確かにそうですねぇ(にっこり)。あなたには選択の余地はないんでし たね。では、僕もしばらく様子を見ることにしましょう』 「待ってください!あなたは何を・・・・?」 『じゃ、僕はこの辺で失礼しますよ』 「待って・・・・!」 〜その2へ続く〜 |