記憶
彼の親族が言う
「 この世に生まれてくるまえに 、 おまえはこう望んだに違いない
『 この世の汚濁を見ないですむように 神様 私の瞳は あなたにお返しします』 とね 」
( 知らない 私は 生まれる前のことなんか覚えていない )
別の親族も言う
「 あの子の目は、高名な医者も魔道士も治せない
あの子の力は、他人の病を治すことに使えても、自分の目を開かせることには使えない」
なにか、まがまがしいものが封印されていることを、その年老いた親族は見ぬいていた。
そして、彼女は周りの者に繰り返し語る。
「 あの子の目が開かれることは一生あるまい( あってはならない ) 」 と。
彼女自身に言い聞かせるように。
彼女自身を納得させるために。
「 ( どうしてこんな子どもが私の家系に生まれてきたのだろう
どうしてあの子はそんな禍禍しいものと一緒に生まれてきたのだろう
だれかあの子の過去世を占っておくれ
ろくでもない者だったに違いない
過去世の贖罪のために生まれてきたにちがいない
(( おとぎ話に出てくる ランプに封印された魔法使いのように?))
そんな子は要らない
僧侶にでもするしかなかろう
神に仕えるより、他人(ひと)に仕えるより、我が家(いえ)に仕える子どもがほしかったのに
あの子の開かない目は涙を流さない 心の冷たい子
) 」
ため息のなかに潜む彼女の嘆きが
彼の小さな身体にまとわりつく
( 知らない どうして私が私に生まれてきたかなんて 知らない )