L ) 「家」の隠喩 F )家は、そこに住む人の…の続き
レゾのうち
レゾのうちがキャパシティを表わす意味で「大きい,広い」とすると、レゾの年齢を表わす意味で「古」く
なくてはならない。もちろん古さを感じさせない建物だろうけど。
もとは僧院だったのをレゾの先々代の貴族様とかに下賜されて、代々、手が入れられていくうちに変な造りに
なってしまったとか。
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ちびのゼルが初めてその家を見たとき、その大きさ広さにたじろぐ。
しかし、レゾはこともなげに、ちょっと困ったようにつぶやく。
「見た目よりも、ずっと古いんですよ…多分、あと十年くらいしか持たないように思います」
(もちろんあと十年後くらいに、今の自分が壊れてしまうことを、自分で予見するような言葉なのさ。)
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ちびのゼルは、自分の部屋で本に目を落としている。
ふと、なにかに気がついたかのように面( おもて)を上げ、窓の外を見やる。
そこがレゾのいる一階の実験室から遠く離れた自室であっても、レゾが力ある言葉を唱え始めると、
建物をとりまく緑が微かにざわめき、空気が微妙に色を変えるのが、ゼルにも伝わる。
「あ、レゾが魔道の実験をしている」 と、本を持つ手を休めて、ちびのゼルは思う。
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「レゾ様が帰ってこられると、館の周りの木や草がよく伸びるので困る」
と、庭の管理を任されている者がぶつくさ言う。魔道の実験をすると、魔力の影響(余波)で、
館をとりまく緑の生育が早まる。管理者は一日中草むしりに追われることになる。
(う、これは『ぼくの地球を守って』が入ってるうぅぅ。木蓮さんでしたっけ…。音楽室の下のイチョウの木が…)
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レゾのうちは美しい外壁…のような気もするが、一方でツタかつるバラに被われていてもおかしくないような。
(シャブラニグドゥに、彼の心がじわじわと絡(から)めとられていく隠喩として。)
(物言わぬ自然や植物は、「無意識」を象徴する。魔王なりタナトス(死の本能)なりが潜む場所)
壁のひび割れを隠すために、家の修景用として壁に這わせたつるバラ。
が、花もつけずにツルばかり伸ばし、静かに葉を茂らせてゆく。
いつしか館の壁面を被いつくしたそれが、建物をとり崩す。
ちびのゼルの心に、ふと、そんなビジョン(光景)が浮かぶ。
が、彼はそれを慌てて心から追い払う。
「家」 が心の中を表わすと教えてくれたのは、中学生の時、文通友達からの手紙だった。
心の中を家にたとえるなら、学校の友達とは「応接間」でしゃべっている感じがする。
だけど、Kさんとは、「居間」で話をしている。
しかも、Kさんは、ときどき「私の部屋」のドアをノックするので、私はぎくりとする。