その6 連続性 「 もとの身体に戻る方法」を、ゼルと同じく捜し求めているキャラクターに、小学生探偵 工藤…じゃなかった、江戸川コナンがいる。 コナン君は最初、高校生探偵・工藤新一として登場した。そしてコナン君の背後には、 新一の面影が見え隠れする。だから、コナン君が新一に戻った時、読者にとって違和 感はない。(時々、試薬の実験で新一に戻ってもいる) コナン君を失う代わりに新一が戻ってきたことを、幼なじみの蘭は受け入れるだろう。 ゼルは? ゼルは人間に戻れば幸せになれるのだろうか? …なれるわけがない。 もとい、単純にYESとは言えない。 (人間に戻ったゼルを、ゼルとして受け入れるのはそう簡単ではない。 たいていのファンは、「ゼルが人間に戻ったら、それはゼルではない(だからあの姿の ままでいい)」と不安に思いながら 「TRY」 を見ていたのではないだろうか。 ( ごめんなさい、下手なシャレです… ) そうゆう集合無意識のようなものがあるから、ゼルが人間に戻る物語は、アニメでも 原作でも、棚上げにせざるをえなかったのではないか。 「TRY」最終回で、「滅亡という名の浄化。転生による人生のリセット」の可能性を ヴァルガーヴに説かれた時のゼルの答えは… 「自分が自分でなくなるのはごめんだ」 これを聞いて、私は頭を抱えた。それを口にしてしまったら、人間の身体に戻る理由が なくなるじゃないか…? 彼が人間の身体に戻りたいのは、それが本来の自分の姿だと思うから。 強さを手に入れた代償に、失ってしまった「自分」を、とりもどしたいから。 しかし、これは、合成人間の身体になってからの自分も「自分」であると、この期に及ん で認めてしまった言葉ではないだろうか。 リセットの可能性を無印やNEXTの頃に説かれたなら、即座に「ごめんだ」とは、でてこ なかったのではないか。チラッと頭をかすめる考えを、<ふたたび甘い言葉にはだまさ れまい>として、ふりきるような、少しの間があるような気がする。 意識の表層の「人間の身体に」という思いと、すでに前意識(きっかけがあれば言葉と してでてくるレベルの混沌の意識)にまで上ってきている「キメラの自分も自分」という思 いが分裂していると、容易に「キメラである自分」を捨てる(否定する)ことなど出来るはず がない。 …ただ単に、「親切な魔法使いが現れて、彼を人間に戻してくれました」という話では、 「そのあと彼は、人間の身体に対して適応不全を起こして死にました。(または病気に なりました) 」 となるのがオチではなかろうか。(冗談です) (そのお話に、人間に戻ったゼルをゼルだと受け入れられる流れがあればよいと言い たいのであって、人様の書かれるSSを否定してるわけじゃありません。念のため) だから、「 TRY 」の後日譚で、護符を持ってアメリアの元を訪れるときのゼルの内面は 「元の身体に戻りたい。しかし、心の底からそう思っているのか、自信がない。 (戻りたくないなどというわけでは決してない。が、どうでもいいというあきらめと、なげやり な気持ちと、いまさら元の身体に戻ることに対しての微かな不安と)」というところではない かと、勝手に推測している。 そうでなければ、水筒に護符をつないでおいた意味 ( その5 ) もなくなるし、彼にとって 「アメリアに会う」ことよりも「 元の身体に戻る方法を見つける」のが先決事項なのだから、 キメラの姿のままで、アメリアのもとに立ち寄る理由がなくなる。 人間は、どんな状況にも慣れてしまうから。不自由だと思っていた身体でも、それなりに 使いこなし、裏の世間を泳いで行くすべを身に付けているだろう。 仮のはずの姿で長い時間をすごしてしまうと、その状況をいやだと思いながらも、そこから 抜け出るのも億劫になるような、心が疲れてしまうような時は必ず訪れる。 キメラのままでも不幸?人間に戻っても不幸?。 (だから私は彼が幸福になった行く末の入っている物語を、ファンの手によるたくさんのパ ラレルワールドのようなSS群の中に見つけると、ほっとしたりする。) 「そうだよね、不幸になるとは限らない、アメリアがいれば」と。) …つまり、ゼルが人間の姿に戻るには (人間の姿に戻っても不幸にならないためには )、 <本来の自分の姿を取り戻したい>ということ以外の理由や動機を要するのではないか。 それは、<その人>を失うくらいなら、自分を失って(捨てて)しまったほうがましだと思い、 彼がそうしてしまうような状況 (…「NEXT」の最終話で、リナが、彼女にとってのかけが えのない人を守るために自分も世界も投げうってしまったような )と、そうして人間に戻った 彼を彼だと認めてくれる他者が必要、ではなかろうか。 … ( 本音を言えば私も、ゼルはキメラの姿のままでいいじゃないか、と。) たぶんアメリア(アニメの)にとって、ゼルが人間に戻っても戻らなくても、どちらでもかま わないのではないか。 「キメラの身体と人間の身体ではどれくらい成長速度が違うのだろうか?」なんてことを、 彼女が考えない限りにおいては。 彼女はゼルに 「元の姿を取り戻したら、きっとセイルーンに来てください」とは 言わなかった。 「セイルーンに来てくれますか」とだけ。 ゼルは彼女に 「元の姿を取り戻したら、きっとセイルーンに行く」とは約束して いない。 「考えておく」 とだけ。 だから彼はキメラの姿のままで、かわいた心をいやすために、彼女のもとを訪れる … しかし、人間の姿に戻らないことには、ゼルはアメリアと同じ時の針の上を歩むことは できない。 人間の姿に戻ることは、「人間の姿に戻りたい」という夢が終わること、放浪を終わら せ、地に足をつけてくらすこと。魔法を失うこと。人間の身体に戻っても今までと同じ ように魔法が使えるという甘い話にはなるまいから、キメラの体に「戻りたい」と彼が 思わない保証もない。 だからそれを 「魔法の使えないみじめな現実」にしないために(笑)、未来に向かって ひらかれた現実にするには、そこに 「 いっしょに幸せになりましょうね!」 と言って 笑ってくれる彼女がいてほしい。 … そして彼が人間の姿を取り戻したとき、 「あなたは(以前と)少しも変わってないですよ」という意味の、一見 すっとんきょうな、矛盾して聞こえる変な言葉が、必要。 彼に対して、キメラだった彼を肯定し、キメラの時点からの連続性を保証してくれる言葉 (とその人間)が、彼が人間の身体( と人間の住む世界)を自分のものとして受け入れる ために、必要なのではないか。彼が彼で在り続けるために。 アメリアに、王子様の呪いを解き、王子様と幸せになることのできるお姫様になって ほしいと、私は思っている。 ( 「なぁにを わかりきったことを」と言われるかな…?) (…たわごとです…たわごとですからお見逃しを…) |
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…☆…☆…☆…☆…☆…☆… ☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆ また、ゼルの場合は、ゼルが元の身体に戻るためのヒントをアメリアといっしょに過去に 探しに行く過程で「レゾに魔法をかけられた時、ゼルはゼルになった」というのを、魔法を かけられる前から、(少なくともレゾに見出された時点から)、ゼルはゼルだったという連 続性をもったものに、変換する必要があると。そうしないと、人間に戻ったゼルもゼルであ るというふうにベクトルが延びない。魔法をかけられる以前の少年が、その資質をレゾに 見出されるような物語があるといいなと思う。 ( 「昏い月」) …☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆ |