『黄金の心臓を探して』(夢魔編) <エピローグ> 「やっほ〜、アメリア〜」 「……リナさん……またご飯ですかぁ?」 「察しのいいこと!お願いするわ〜」 「もう〜、この前みたいなこと、絶対にしないでくださいよ!」 アメリアの私室の外で、またもやガウリイをぶらさげたリナが現れたのは、ア メリアがゼルガディスとともにセイルーンに戻って一月後のことだった。 ゼルガディスはセイルーンで一泊し、旅立って行った。 セイルーンに戻るまでの旅路で、ゼルガディスとは手をつないで歩いた以上の ことは無かったが、確実に、これまでとは違った関係が結べた気がする。だから、 アメリアは自分が旅で正義をどれほど追求したか、自分から父親に報告するとき、 これまでのように誇張する必要が無くなった。 もちろん、リナはそんなことは知らなかったが。 リナたちの暴飲暴食を監視するため、アメリアは自分のサロンを臨時にリナた ちの食事室にした。厨房からリナたちに割り当てられるだけの料理を運ばせて、 「これだけですからね」と念を押して食事が始まる。 「ガウリイっ!そっちの炒り卵、あたしんだからねっ!」 「リナこそっ!ソーセージ独り占めすなっ!」 相変わらずのバトルを眺めていたアメリアが、リナが香茶をすすり始めるのを 待っていたように声をかける。 「ねえ、リナさん?ガウリイさんとゼルガディスさんが、ドラゴンに食べられそ うになっていたら、リナさんはどちらを助けますか?」 「な、何よアメリア?急に?」 「だって、この間、リナさんたら、わたしにだけ答えさせて自分は逃げたでしょ う?だから仕返しです」 「う〜ん、そうねぇ」 リナの頭の中に、二頭身のガウリイとゼルガディスが、ドラゴンの上下の顎を 両手足で支えて閉じさせないように必死になっている光景が浮かぶ。そこへ二頭 身のリナが現われ、お助け料しだいでは助ける、と言う。 「言っとくけれど、ゼル、あなたはそう簡単に噛み砕かれたりしないでしょうか ら、自力で助かる可能性は高いでしょ?だからあたしに助けてもらいたかったら、 ガウリイの倍、払いなさいよね」 「ば、ばかっ!こんな状況で何を言う!」 「で、ガウリイ?あなたは生身だからドラゴンもさぞ食欲を刺激されているでし ょうね。だから、あなたの方が危険度は高いわよ。さあ、いくら出す?」 「こらっ!リナ、胸もないくせに何を生意気なことをっ!」 「なんですってぇ!(ぶちっ!)」 切れたリナは、ドラゴンではなくドラゴンにくわえられているガウリイめがけ て竜破斬(ドラグ・スレイブ)を放つ。しかし、怒りのあまりコントロールが狂 い、最強の広範囲型攻撃呪文は、ガウリイのすぐ背後、ドラゴンの口の中で炸裂 する。 結局、ガウリイを食べようとしていたドラゴンは倒され、余波で吹っ飛ばされ たもののガウリイは助かった。ゼルガディスはドラゴンに飲み込まれて喉にひっ かかり、ドラゴンの咳とともに外に吐き出されて助かった。 再び、リナだけがお助け料を損した計算になった。 「……ってことになるから……ガウリイを先に助けることになるのかな?」 「おい、リナ〜?俺、喜んでいいのか?それとも……」 「喜んでりゃいいのよ、あなたは」 「……どっちも助けたことにならないんじゃないですか……」 「じゃあ、アメリア、あなたはフィルさんとゼルがドラゴンに食べられそうにな っていたら、どっちを助けるのよ?」 「そうですね、先にゼルガディスさんを助けて、一緒に父さんを助けます」 「…………あ、そう」 リナは少し驚いてアメリアの顔を見た。一月前、質問した時とは答えの方向が 違う。この変化の意味は? 「ねえ、アメリア?ゼルは一月前、あなたをセイルーンまでちゃんと送ったの?」 「はい、しっかりと護衛してくれました。あ、途中でわたし、魔力が復活したん ですよ。それでも最後までついて来てくれました」 答えるアメリアは本当に嬉しそうだ。 「……で、ゼルはそれからどうしたの?」 「どうした、って?また旅に出ましたよ」 「セイルーンに来て、またすぐ出発したの?」 「すぐじゃなくて、一晩、泊まっていきました」 リナは軽く頭を振った。一晩だろうが二晩だろうが、すぐに出発した部類じゃ ないか。それなのにアメリアのこのあっけらかん、とした態度はどうだろう。 「あのねぇ、アメリア。あなたはそれでよかったの?」 「は……?だって……」 アメリアは初めてリナの質問の意味を理解したようだ。顔が赤くなる。しかし、 その顔に大きな笑みが広がった。けして照れ隠しとか、無理やり作っている笑い ではない。 「だって、リナさん。ゼルガディスさんは人間の身体に戻る方法を探しているん ですよ?わたしだって、一生懸命、正義を追求しているから分かるんですけれど、 必死に大切なものを探すのって、素晴らしいことじゃないですか! わたし……そうやって旅をしているゼルガディスさんのことが好きなんです」 リナの脳裏に、かつて父親に評価されたがっていたアメリアの姿がよみがえる。 「父の娘」を脱皮したアメリアは、今度は自分の全てをかけて人間の身体に戻る 方法を探しているゼルガディスに、自分を近づけたがっているのか? アメリアは憧れる人物に自分を近づけることで愛情を表現して、それで満足な のかもしれない。愛情の対象をそばに留めたい、と願わないのは、まだ精神的な 繋がりだけで満足する、抽象的な恋愛の段階なのだろう…… 「まあ、いっか……」 リナは苦笑を浮かべて、残った香茶を一気に飲み干した。 視線を窓の外に移すと、中庭の花壇では花々が春を謳歌している。 リナがふとアメリアを振り返ると、彼女は花壇の花を夢見る目つきで眺めてい る。きっと、あの花の向こうに、同じ春の日差しを受けて旅をしているゼルガデ ィスの姿を見ているのだろう。 幸福いっぱいのアメリアの笑顔に、リナは自分まで温かい気持ちで満たされる のを感じた。 (アメリア、ゼル、あなたたちはこれで幸福なのね) なんだか自分のことのように嬉しくなり、全身に熱いエネルギーが溢れてくる。 「アメリア!ねえ、またおなかがすいちゃった」 「ええ〜っ!まだ食べるんですかぁ!?」 「だって、おなかがすいたんだもん!もっと食べたい!」 「太っても知りませんよ〜」 「いいじゃん、食べた分が胸に入ればリナもアメリアみたいに……」 「ガ・ウ・リ・イ……」 「ぎゃああっ!許してください〜!」 アメリアのサロンに攻撃呪文が炸裂し、賑やかな春の一日に色取りを添える。 セイルーンは今日も平和だった……。 『黄金の心臓を探して』(夢魔編) 〜fin〜 <五>に戻る SS紹介の頁に戻る MENUページに戻る キューピー/DIANAさんへのメールのあて先は… E−Mail : pfc01517@nifty.ne.jp |